自社株を対価とするTOBの税制優遇措置

f:id:takatori0219:20200130105913j:plain
ブッダ先生が独自の視点で物申す、

ブッダ先生の世相斬り!」のコーナーが始まりましたー(パチパチパチパチ)

(「たけしの世相斬り」のオマージュですね。)

 

たいそうな名前が付いていますが、日経新聞の記事を、公認会計士の受験勉強の知識を使って説明してみようというコーナーです。

あくまでチャレンジのコーナーですので温かい目で見守っていただけると幸いでございます。。 

 

 

 世相を斬る理由

このようなコーナーを始めた理由は、会計の専門家になるわけですから、

・日常で起こる出来事を会計士の視点から分析・解説できるようになりたい

・このような情報のニーズが存在した(妻からの要望)

からです。

初めのうちは稚拙な記事になると思われますが、

記事を重ねるうちに質の高い情報をお届けできるようになりたいと思います。 

では、記念すべき第一回、早速記事の解説に参りましょう〜 

注目した記事

f:id:takatori0219:20190902114026j:plain

「自社株対価のTOB 買い付け先株主税負担なしに」という見出しですね・・・
いきなりこの記事はレベルが高いですね。難しいです。
新聞読んでいても確実にスルーする記事の代表格でしょう。
しかし、ブッダ先生は逃げません。専門家になるのですから!解読していきましょう。
この記事は、「会社法」「税法」に関連する内容ですね。

 

この記事を一言で要約すると、
TOBの税制優遇措置を検討している」ということです。
では、TOBとは何か?税制がどのように優遇されるのか?
そして何のため優遇するのか?

TOBって?

既存の株主から株式を買うことですね。
プレミアムを含むちょっと高めの価格で株主に株を譲ってくださいというのです。
そうしなければ既存の株主売りたいと思わないですよね。これで既存株主から
株式を買い取るのです。なお今回の記事は、既存株主に対しての支払対価に自社の株式を用いる場合を対象としていますね。
つまり「既存株主さん株譲ってください、対価として私の株を差し上げますので」
というケースです。

そもそも何のためにTOBするの?

特定の企業を買収したり経営の実権を握るためです。株式会社の重要な意思決定は株主総会決議により多数決でなされます(資本多数決の原則)。よって株式の過半数保有(=議決権の過半数保有)していれば会社の意思決定を「支配」することが可能なのです。

税制優遇って?

この記事は誰に対する税制優遇措置なのか?見出しにある通り「買い付け先株主」です。つまりTOBにより株式を譲る側の税負担を軽減しようという制度です。

 

会計処理を考えれば難しくありません。

有価証券を売却する際の処理を思い出してみます。

 

売り手の処理:

f:id:takatori0219:20191229150918j:plain
このように株式の売り手は、株式の帳簿価額とちょっと割高の対価の差額を売却益として認識します。この売却益法人税の課税対象になるのでこれを税負担を言っているのですね。 

 

では今回の記事のケースはどうなるか?

今回の記事では「自社株対価のTOB」ですので、同様に処理を考えてみます。

(A社株式を保有していて、B社からの自社株対価TOBに応じるケースを想定)

 

売り手の処理:

f:id:takatori0219:20191229151023j:plain
対価が自社株(B株)に変わっただけで同じ処理ですね。すなわち売り手に売却益が計上され法人税の課税対象になり税負担となります。 

 

今回の税制優遇措置は、この売り手が計上する売却益に対する課税を、B株売却時まで行わない措置ということです。

法人税現金支出を伴うため、会社の資金繰りに影響します。この現金支出を将来に繰延べる措置なわけですから、資金繰りの観点からは余裕が出ますね。この点をもって「優遇」と言っています。 

会社法改正に合せて税制改正

記事では、株式を対価とするTOBをしやすくする会社法改正との整合性を図る点が記載されています。会社法が改正されるから税法も改正しましょうということですね。

なんで会社法改正するんだろう?

ここからは記事には書いていませんのでブッダ先生の物申しタイムです。

 

この記事のポイントは

税制優遇措置の対象が「買い付け先株主」であり「TOBをする側」ではないことにあります。

なんとなく記事を読めば、対価を株式としたTOBをしやすくしてM&Aとかを促進するのかな〜なんて思います。

でもそれなら、TOBをする側を優遇すべきじゃないですか?そのほうがM&Aは促進される気がします。

それにもかかわらず、「買い付け先株主」の税負担を軽くする意図は何なのか?

記事には「自社株対価のTOBをしやすくするための会社法改正」とあり、TOB「促進」よりも「障壁を取り払う」ことに主眼がありそうです。

 中小企業の再編の波

私が思うのは、国主導の中小企業の再編を念頭に置いた会社法改正なのではないでしょうか。日本の企業の9割以上が中小企業ですよね。これって国際的に見てもかなり高い割合だし数も多い。

そんな日本の中小企業が共通して抱えている課題が後継者問題です。跡取りがいないのです。中小企業の社長の年齢が50~60代でしょうから後10年もすれば加齢を理由に経営から退かなければならなくなるでしょうし、2020年東京オリンピックを境に景気が悪くなるとも言われていますよね。

そのような逆風にさらされている中小企業がかなり多いわけですから、国主導の中小企業の再編は急務だと思います。「地方創生」の一環として将来的にこの動きは高まるでしょう。

その実行段階において、官民ファンドが主体となり、中小企業の株を買い取る際の障壁を取り除くための法改正なのではないでしょうか。

このように考えれば、今回の税制優遇措置の対象が「買い付け先株主」であることに納得できます。国が自らを優遇しても意味ないですからね。

 

中小企業の社長は中小企業の株主であることがほとんどですから、「買い付け先企業の株主」への優遇措置は「中小企業の社長」への優遇措置と言えます。再編の説得材料としての措置、そんな位置付けの制度なのだと思います。